キトラ古墳発掘情報
キトラ古墳の壁画保存の経過

墓道全景(南西から)今回はキトラ古墳の壁画保存の経過について紹介したいと思います。

キトラ古墳の石室内の発掘調査については、これまでにも紹介してきました。
今回はすでに始まっている壁画の保存について紹介したいと思います。


石室内に描かれた壁画は、キトラ古墳を構成する重要な要素です。
この壁画は本来古墳の中で恒久的に保存されることが原則であり、それは他の文化財においても変わりがありません。
しかし、現地での恒久的な保存が難しい状況では、壁画のはぎとり保存も文化財保存のひとつの選択肢であると考えられます。

この結論に達するまでには各分野の専門家によって多くの議論がなされました。


キトラ古墳の壁画は、極めて危険な状態であるといわれてはいるものの、多くの人々 はまだ大丈夫という気運も根強く残っています。
しかし、現実の壁画の状態は、すでに漆喰が剥落した部分、漆喰が石材から大きく浮き上がった部分、漆喰に亀裂がみられる部分など様々です。
この中でも東壁の青龍と西壁の白虎では、石材から1センチ以上も漆喰が浮き上がっており、数カ所の点によって、かろうじて漆喰面が引っ掛かっている状態でした。
ですから、いつ落下してもおかしくない状態でした。
内部で発掘調査をしていても、このことが一番心配した点です。
さらに漆喰と石材の隙間には土や漆喰小片、根などが詰まっており、押し戻して接着することも不可能です。
そこでこの両面についてまず、壁画をとりはずして保存処理を施す方針がとられました。 


では残った壁画の保存はどうでしょうか。
はじめにも記したように、壁画は古墳の中で保存されるのが原則です。
しかし、ここでも多くの問題点があげられます。

  1. 漆喰は環境の変化によって収縮を繰り返し、既にある無数の亀裂部分から剥離が広がっていく。
  2. 発掘調査以降、カビが断続的に発生しており、特に青龍裏側の隙間にもカビが存在していたことから、目視できない部分のカビを抑制できない。
  3. カビ防止には乾燥させることが考えられるが、乾燥によって亀裂の拡大・発生や壁面の浮き・劣化も進行する。
  4. 湿度100%で採用できる接着剤は少なく、広く剥離した部分では満遍なく塗ることが出来ず、後に剥離する可能性が高い。また、接着剤が将来的に壁面に滲みでて、汚れを生じさせる可能性もある。
  5. 漆喰と石材の間には木の根・漆喰小片・土・カビの胞子があり、現状のままでは除去できない。このまま石材に強行的に貼り付ければ亀裂や歪みの原因となる。
  6. 漆喰壁は永年の変形によって、貼り戻すとゆがみがでる部分がある。
  7. 保存修復・処理には、石室内の狭い空間での長年月にわたる作業が必要であり、この間の環境維持が難しい。


このような問題点から、キトラ古墳では石室内での壁画の保存は極めて困難であり、壁画を石室外で修復・保存処理する方針が示されたのです。
しかし、壁画を石室からはぎとり、修復することにもリスクはあります。
壁面の状態は部分によって様々であり、一様ではなく、作業も簡単ではありません。
そして何よりも我が国では古墳壁画のはぎとりは初めての試みです。
寺院での壁画ではいくつかの経験はあるものの、古墳壁画では経験がありませんでした。
しかし、「保存科学」という科学技術と、「表具」という伝統技術の融合によって、青龍・白虎のはぎとり作業は成功しました。


今回実施されている壁画のはぎとりは、保存のひとつの方法です。
キトラ古墳の壁画は、それだけでも価値の高いものです。
「壁画」を守ると同時に、「古墳」も守るという両者を守るためにとられた策でした。
このことによって壁画の公開への道もひらけてきました。


一方、同じ壁画古墳である高松塚古墳についても、現在様々な分野での検討がなされています。
壁画の状態はキトラ古墳とは異なっており、キトラ古墳で議論されている点が活かされる点もあるが、異なる検討が必要な点も多い。


これからもより良い方法で二つの壁画古墳を守っていけるように、多くの議論をし、村民のみなさんと共に考えていきたいと思います。

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