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高松塚古墳壁画の現状
高松塚古墳壁画の恒久保存に向けて、文化庁では検討が進められています。 今回は高松塚壁画の現況について説明したいと思います。 高松塚古墳壁画は劣化やカビ被害を受けていますが、文化庁では検討会を設置し、その保存対策について話し合われています。 今回はまず、これまでに公開されている情報をもとに、壁画のおかれている現状と課題点について報告したいと思います。
高松塚壁画が発見された当初の、壁画保存の方針・方法は?

石室内に描かれた壁画は、高松塚古墳を構成する重要な要素です。壁画は本来古墳の中で恒久的に保存されることが原則であり、これは他の文化財においても変わりがありません。高松塚古墳壁画では海外からの専門家の意見も参考にし、現地で修復・保存することが決められました。特に、その保存環境が壁画保存の今後を左右することから、石室内を発掘前の環境(温度・湿度)に維持することが有益と考えられました。石室は墳丘の中の地中にあり、自然に発掘前の環境(地中温度)に戻っていきます。

高松塚古墳の保存施設の概要は?

石室内は発掘前の環境に自然に戻り、維持されますが、石室内での壁画の修復や点検にあたっては、人の出入りが必要となり、石室内と外との環境差を抑えるために、石室の前面に保存施設が必要となります。つまりこの保存施設は石室内の環境を強制的に維持するものではなく、人の出入りにあたって、前室の環境を整える施設です。

壁画の修復とカビ処理の経緯は?

保存施設完成後、ほぼ10年にわたって壁画の保存修理が行われました。それは剥落しそうな箇所を樹脂によって止めるものでした。この時期すでにカビも断続的に発生しており、カビ処置も並行して施されています。

その後、平成12年までは、年に1回の定期点検だけで、カビは比較的少なく、注意深く監視を続けていました。しかし、平成12年にはカビが大発生し、壁画にも影響を与える状況になっていき、平成14年には複数のカビが発生、壁面に黒色の染みを残すことになりました。

これらの状況から、文化庁では平成15年に「国宝高松塚古墳壁画緊急保存対策検討会」を設置し、原因究明と応急的対処法について検討しました。さらに平成16年には「国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会」に改組して、現在に至っています。

検討会委員の構成は?

国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(24名)、同作業部会(13名)で構成されており、考古学だけでなく、保存科学・美術史・修復・地盤工学・防災・生活空間学・微生物・生態管理などの各方面の専門家によって検討がなされています。

白虎などの壁画が薄れてきた原因は?

壁画の描線や彩色が不鮮明になっていった原因は、カビの菌糸が漆喰の中にくい込んで漆喰層にダメージを与えると同時に、そのカビを除去するために殺菌処置を繰り返し施した結果、表面が荒れたり、描線が不鮮明になったことが考えられます。

これまでの応急対策の内容については?

カビ発生と降雨の浸透による墳丘東北部の水分上昇の因果関係が指摘されてきました。また、ムシの侵入経路も墳丘上のモチノ木や竹の根の可能性も指摘されたことから、応急対策として、平成14年度に墳丘上の樹木を伐採、防水シートで覆うと共に、周囲に排水施設を設けました。さらに、平成16年には墳丘の損傷状況を把握するために、墳丘部分の発掘調査も実施しています。

なぜカビが大発生したのですか?

カビは温度・水分・酸素・栄養等の要素が揃えば、すぐに発生します。平成12年頃には温度の上昇や水分上昇がみられており、すでにカビが繁殖する条件が整っていました。そうした中、石室取り合部に発生したカビを契機として、温度上昇や水分・栄養分の供給などが重なり合って、平成13年のカビ大発生に至ったと考えられます。

石室内のカビによる被害の状況は?

石室内ではカビが発生していますが、一部には黒色のカビもみられます。これが壁面に黒い染みを残すことになりました。また、同時に発生したダニやムカデなどにより、カビが石室全体へと再散布され、影響を大きくしています。さらにカビはダニの餌になり、ダニの排泄物や死骸が、カビの栄養源になるという生物サイクルができあがっているようです。

現在はエタノールによる殺菌や薫蒸を行っているが、増殖速度に処置が追いついていない状況です。

石室内にムシが入っているようですが、その被害と侵入経路は?

石室内ではムカデやダニなどの微細な小動物が石室内に侵入しています。これは発掘後から断続的に続いていました。これらの小動物によってカビが石室内全体への散布を大きくしたと考えられ、壁面漆喰層への直接的な影響も伺われます。

しかし、これらのムシの侵入経路については明確ではなく、発掘調査で確認された地震の亀裂などが考えられます。石室にも亀裂や隙間があり、このような部分から入ってくると考えられますが、どの穴かは特定はされていません。

漆喰面の劣化の現状は?

壁画の描かれている漆喰の劣化状況についてはいくつかの状況が確認されています。

まず、漆喰の状態は剥離している部分や細かなヒビのはいっている部分、粉状に剥離が進行している部分、さらに漆喰層の内側が脆弱となり、表面が陥没している箇所などがあります。また、以前に実施していた壁面強化のための樹脂等により変色したり、その後のカビ処置による樹脂の白濁化もみられます。そして、カビによる漆喰への変色と菌糸の侵入による物理的破壊もみられます。

石室石材の状態は?

石室の石材は長期間水分を多く含んだ状況にあったため、その強度は低下しています。詳細については今後の細かな調査が必要です。また、天井石にはひび割れもみられ、石材には隙間などがあることから、気密性は低くなっています。これらの隙間は上に漆喰層がある部分もあり、すべてを封鎖・密閉することはできません。

石室の温度の状況は?

発掘直後から昭和60年頃までは、石室内の温度は最高で17度台に収まっており、カビの発生も薬品などによって抑えられていました。しかし、平成12年には19度を超え、カビの発生しやすい環境になってきており、平成13年にはカビが大発生しました。その殺菌処置のためには、頻繁に石室内への入室が必要となり、このことがさらに温度の上昇を促進させています。

墳丘の東北部の水分分布が高いようですが?

墳丘の東北部には他の部分よりも水分分布が大きい部分がみられます。この影響で石室東側石材の水分分布率も高いものになっています。

発掘調査の結果、この部分には石室よりも高い位置に粘土層があり、ここに水が滞留していることが原因と考えられます。

発掘調査で地震の痕跡が発見されたが?

発掘調査では過去の大地震の痕跡として、墳丘に地割れや亀裂・断層が見つかりました。この亀裂には柔らかい土が入っており、ここに根が入り込み、これが腐ると空洞になります。これがムシや水の侵入経路にもなります。

また、地震の痕跡が見つかったことによって、今後起こるとされている東南海地震にも対応する必要が改めて明らかになりました。

高松塚古墳壁画の恒久保存へ向けての課題点は?

これまでにみたように壁画保存にあたっては様々な課題が浮き彫りになってきました。これらは個々に存在するのではなく、それぞれ密接に関わっています。

そこで今後克服しなければならない点をまとめると、

  • 水分率上昇の抑制
  • 温度上昇の抑制
  • カビ等微生物の抑制と侵入経路の封鎖
  • 漆喰劣化の抑制とその修理・強化
  • 今後の地震に対する対応

となります。これらを制御することが高松塚古墳壁画の恒久保存対策の前提となります。

なお、検討会の内容については、文化庁のホームページで公開されています。

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